非常用発電機の導入に使える「自衛的燃料備蓄補助金」とは?補助率・対象施設・申請の注意点を解説
2026年10月22日 · @木下 和樹
停電が長引いたとき、施設は持ちこたえられるか
非常用発電機の導入費用は、国の「自衛的燃料備蓄補助金」を使えば最大で3分の2まで補助を受けられます。老人ホームなどの福祉施設も対象です。
大規模な地震や台風では、停電が数日続くことがあります。高齢者が暮らす施設では、空調や照明、たんの吸引器、エアマットなどが止まると、入居者の命に直結します。一方で、入居者を避難所へ移すことは簡単ではありません。施設そのものを「避難しなくても過ごせる場所」にしておくことが重要です。
その備えの柱になるのが、非常用発電機と、それを動かす燃料の備蓄です。本記事では、令和7年度補正・令和8年度の公募内容をもとに、この補助金の仕組みと、介護事業者が特に注意すべき点を解説します。
補助金の目的と仕組み
この補助金は、災害時に燃料の供給が途絶えても、施設が自前で数日間エネルギーを確保できるようにするための制度です。正式名称は「災害時に備えた社会的重要インフラへの自衛的な燃料備蓄の推進事業費補助金」で、経済産業省資源エネルギー庁の事業です。
申請の受付や審査は、執行団体である一般財団法人エルピーガス振興センターが行います。燃料の種類によって窓口が分かれているわけではなく、次の2つの方式をどちらも同じセンターが扱います。
- LPガス方式:LPガスの災害バルク(大型容器)やシリンダー容器を設置し、LPガス発電機や空調機器とあわせて導入する
- 石油方式:軽油や重油などの石油製品タンクを設置し、発電機などとあわせて導入する
ポイントは、発電機だけを買う補助金ではないことです。燃料を備蓄する設備と、その燃料で動く機器をセットで整備することが前提になっています。
対象になる施設は3つの区分
対象施設は、災害時の役割に応じて次の3つに分かれます。老人ホームは①に当たります。
| 区分 | 主な施設 | 補足 |
|---|---|---|
| ① 避難困難者が多数生じる施設 | 入院設備のある病院、透析クリニック、老人ホーム等の福祉施設、障害者施設、0歳児を受け入れる保育所 | 入所や入院がある施設が中心 |
| ② 公的避難所 | 市区町村が避難所に指定した庁舎、学校、公民館など | 市区町村が避難所を運営する施設 |
| ③ 一時避難所となり得る施設 | 市区町村と避難所協定を結んだ民間の事業所や商業施設など | 令和8年度のみ申請可能 |
①の施設は、それ自体が避難場所になるという考え方です。入居者を外へ避難させるのではなく、建物の中で過ごし続けられるようにするための設備が補助されます。
なお、住宅型有料老人ホームについては、手引きに「住宅型」という明記はありません。「老人ホーム等」に含まれるかは、申請前に執行団体へ確認しておくと安心です。
補助率は原則2分の1、条件を満たせば3分の2
補助率は、補助対象経費の2分の1以内が原則です。ただし、①の施設で申請者が中小企業者または個人の場合は、3分の2以内に引き上げられます。②と③の施設は、中小企業者であっても2分の1です。
中小企業者の判定には、中小企業基本法の定義が準用されます。介護事業はサービス業に分類されることが多く、その場合は資本金5,000万円以下か、常時使用する従業員100人以下のどちらかを満たせば該当します。
ただし、次のどちらかに当てはまると中小企業者として扱われず、2分の1になります。
- 資本金または出資金が5億円以上の法人に、株式を100%保有されている
- 直近3年分の課税所得の年平均額が15億円を超えている
なお、社会福祉法人や医療法人が中小企業者として扱われるかは、手引きに明確な記載がありません。3分の2を前提に資金計画を立てる前に、執行団体へ確認してください。
補助額には、導入する設備の組み合わせごとに上限があります。
| 燃料 | 導入する設備の組み合わせ | 上限額 |
|---|---|---|
| LPガス | 容器+供給設備のみ | 1,000万円 |
| LPガス | 容器+その他のLPガス設備 | 3,000万円 |
| LPガス | 容器+発電機+空調機器 | 5,000万円 |
| 石油 | タンクのみ | 1,000万円 |
| 石油 | タンク+燃焼機器+発電機 | 5,000万円 |
補助額は、税抜の補助対象経費に補助率をかけた額で、上限額が頭打ちになります。高額な工事では、3分の2と2分の1の差が上限で吸収されることもあります。
令和8年度の新要件:建物を自ら所有し、自ら運営していること
令和8年度から、①と③の施設では、申請者が設置先の建物を所有し、かつ自ら運営していることが必須になりました。前年度にはなかった要件で、介護事業者にとって最も影響の大きい変更点です。
申請時には、申請者が所有者であることを示す建物の全部事項証明書(3か月以内に取得したもの)を提出します。確認シートでもこの点に「はい」と答えられなければ、申請できません。
この要件により、建て貸しや賃借の建物で運営している施設は、原則として対象外になります。オーナーは所有していても運営しておらず、運営事業者は運営していても所有していないためです。オーナーと共同で申請したり、設備をリースで導入したりしても、この条件は満たせません。
手引きが認めている例外は、次の2つだけです。
- 公的避難所(市区町村が避難所を運営する施設)の場合
- 所有者が複数いて、運営者がその中に含まれる場合
後者の場合、運営事業者が建物の共有持分を取得すれば、申請できる可能性があります。ただし、持分の割合に条件があるかは手引きに書かれておらず、所有者全員の合意書も必要です。登記費用や税金の負担もあるため、執行団体と専門家に事前に相談してください。
発電機を導入するときの6つの注意点
発電機の導入には、補助の対象になるための細かな条件があります。計画の段階で、次の6点を押さえておきましょう。
- 燃料設備とセットで導入する:発電機だけでは申請できません。LPガス容器か石油タンクと同時に整備します。
- 燃料は3日分以上を確保する:LPガスは容器容量の50%で3〜7日分、石油は3日分以上が目安です。発電機は24時間稼働として消費量を計算します。
- 発電機は非常時専用にする:普段の電力として使うことはできません(点検や訓練は除く)。スプリンクラー用ポンプを主に動かすための発電機も対象外です。
- 年1回以上の使用訓練を行う:訓練の実施は交付の条件です。
- 3者以上から見積もりを取る:原則として相見積もりで発注先を選びます。
- 交付決定前に発注しない:決定前に発注や契約をした設備は補助の対象になりません。
また、LPガス方式では、電源切替盤の本体と取付工事は対象ですが、電気配線工事はすべて対象外です。見積書では、補助対象と対象外の費用を分けて記載してもらう必要があります。
採択の優先順位とスケジュール
申請が予算を上回った場合は、施設の区分に応じた優先順位で採択されます。公的避難所が最優先で、次に入院設備のある医療施設や透析病院、その次が福祉施設です。福祉施設の中では、福祉避難所が優先され、入所施設が次点になります。一時避難所となり得る施設は、その後です。
老人ホームが採択の可能性を高めるには、市区町村と福祉避難所の協定を結んでおくことが有効です。協定には時間がかかることもあるため、補助金の検討と並行して、市区町村の防災担当課や福祉担当課に早めに相談しておきましょう。
令和8年度の第1回公募は、2026年5月27日から6月16日まででした。予算に達しなかった場合は再度募集するとされているため、追加公募の有無は執行団体のホームページで確認してください。申請書類の作成を外部に依頼する場合、履行補助者になれるのは行政書士に限られます。
問い合わせ先は、一般財団法人エルピーガス振興センター助成事業室(saigaibulk@lpgc.or.jp)です。施設の種別、建物の所有関係、運営法人の資本金や従業員数をあわせて伝えると、回答が得やすくなります。
まとめ:まず確認すべきは「建物の所有」
自衛的燃料備蓄補助金は、老人ホームが停電に備えて発電機と燃料を整備するための有力な制度です。①の施設で中小企業者に当たれば、補助率は3分の2、上限は最大5,000万円になります。
一方で、令和8年度からは建物を自ら所有し、運営していることが必須になりました。検討を始める際は、次の順に確認するとスムーズです。
- 建物を自社で所有し、自ら運営しているか
- 施設が①の「老人ホーム等」に該当するか
- 運営法人が中小企業者に当たり、3分の2の対象になるか
- 市区町村と福祉避難所の協定を結べるか
- 追加公募や次年度公募のスケジュール
要件や公募時期は年度ごとに変わります。本記事は2026年10月時点の公表資料をもとにしているため、申請前には必ず最新の手引きを確認し、執行団体に問い合わせてください。
