特別養護老人ホームの老朽化問題、指定都市市長会が厚労省に大規模修繕・建替え支援を要請
いつ、誰が、誰に要請したのか
令和8年(2026年)8月4日火曜日の午後2時から2時15分にかけて、中央合同庁舎5号館において、指定都市市長会の総務・財政部会長を務める千葉市の神谷俊一市長が、仁木博文厚生労働副大臣と面談しました。この場で神谷市長は、特別養護老人ホームなど高齢者福祉施設の大規模修繕や建替えを支援するための財政措置を求める要請文を提出しています。指定都市市長会は、政令指定都市20市の市長で構成される組織で、大都市に共通する行政課題について国へ要請や提言を行う活動を続けています。今回の要請もその一環であり、介護保険制度や高齢者福祉行政を担う厚生労働省に対して、施設の老朽化という現場の切実な課題を突きつける内容になっています。
特養施設が抱える老朽化の実態
要請文でまず指摘されているのは、特別養護老人ホームという施設の位置づけの重さです。特養は要介護状態にある高齢者にとって生活の基盤そのものであるだけでなく、大規模な地震や風水害が起きた際には、地域住民を受け入れる福祉避難所としての役割も期待されています。近年は高齢化の進展に加え、災害そのものが頻発化・激甚化する傾向にあることから、特養が持つこうした防災上の機能はますます重要性を増しているといえます。
ところが実際の施設の多くは、老朽化が深刻な段階に入っています。かつての措置制度のもとで整備された多床室型の施設や、介護保険法が施行された当初(2000年前後)に建設された施設が多数を占め、築20年を超える建物が全国的に広がっています。建物本体だけでなく、給排水設備や空調、電気系統といった各種設備の老朽化も顕在化しており、単なる小規模な補修では追いつかない、抜本的な大規模修繕や建替えのニーズが高まっているというのが現場の実感です。
財政面での構造的な苦しさ
問題は、老朽化への対応が必要とわかっていても、施設側にそれを実行する資金的な余力がないことです。要請文では、介護人材の確保や職員の処遇改善に加え、近年の急激な物価上昇によって施設の運営コストが押し上げられている一方、介護報酬はあらかじめ国が定める公定価格であるため、施設側が独自に利用料へ上乗せしてコストを吸収することができない構造が指摘されています。この結果、多くの特養で収支差率、つまり収入に対して手元に残る利益の割合が著しく低下している状況にあります。
さらに追い打ちをかけているのが建設コストの上昇です。建築資材の価格や人件費の高騰により、大規模修繕や建替えそのものにかかる費用も大幅に増えており、施設が必要な工事資金を確保すること自体が難しくなっています。運営費に余裕がなく、かつ工事費も上がっているという二重の苦しさが、老朽化対策を後回しにさせてしまう構造になっているわけです。
既存の補助制度では対応しきれない
要請文は、都市部の介護需要は将来的にピークを迎えて減少に転じていくことも見据えたうえで、今後は既存施設を大規模修繕によって有効に使い続ける方法と、状況に応じて規模を縮小しながら建替えていく方法の両方を組み合わせて対応していく必要があるとしています。
これに対し、国はすでに「地域医療介護総合確保基金」という仕組みを通じて大規模修繕への補助制度を設けています。しかし、この基金には建替えそのものは補助対象として含まれていません。また、基金を活用するためには介護施設の新規整備を同時に行うことが補助の要件とされているケースがあり、これは施設側にとって多額の追加費用を伴う仕組みであるため、実際には使いにくい制度になっているといいます。
加えて、令和7年度の補正予算で新たに設けられた国土強靱化対策と一体的に実施することを条件とする補助制度についても、基準額そのものが低く設定されているため、実際の修繕費用を十分にカバーできないという課題が挙げられています。つまり、修繕にも建替えにも、現行の補助の枠組みでは十分に対応できていないというのが、指定都市市長会の共通認識です。
要請の中身――抜本的な見直しを求める
こうした現状を踏まえ、指定都市市長会は厚生労働省に対して次のような対応を求めています。まず、老朽化した特別養護老人ホームなどについて、近年の社会経済環境の変化や将来的な介護需要の推移に合わせて、大規模修繕に関する補助の要件を緩和すること、そして十分な補助基準額を確保することで、実際に使いやすい制度へと見直すことです。それに加えて、現在は対象外となっている建替えについても、新たに補助制度を創設するよう求めています。全体として、必要な財政措置を講じるための制度の抜本的な見直しを、早急に実施してほしいという強い要望が込められています。
この要請が意味すること
今回の要請は、特養という個別の施設の建物の問題にとどまらず、日本の高齢者福祉を支えるインフラをどう維持していくかという、より大きな政策課題を映し出しています。多くの施設が同時期に建設され、同時期に老朽化のピークを迎えているという構造は、これから全国の大都市で共通して現れてくる課題であり、資金確保の枠組みを整えられなければ、災害時の福祉避難所としての機能を含め、地域の福祉基盤そのものが脆弱化してしまうおそれがあります。
指定都市市長会は今後も、要請文とともに提出したPDF資料などを通じて、厚生労働省側の検討状況を注視していくとみられます。今回の要請文の詳しい文言については、指定都市市長会の公式サイトに掲載されているPDF資料で確認することができます。
